不動産を共有している場合、他の共有者が死亡してしまったらその共有持分はどう扱われるのかという問題で、死亡した共有者に相続人がいれば引き継がれますが、相続人がいないケースなどその扱いは複雑です。
共有名義の不動産で片方の共有者が亡くなった場合の共有持分の取り扱いについてご説明いたします。
1.他の共有者が死亡した場合、共有持分はどのように扱われるのか?
1)死亡した共有者に相続人がいる場合
2)死亡した共有者に相続人がいない場合
3)死亡した共有者に相続人がいないケースでマンションの場合は注意が必要
1)相続人がいる場合
2)相続人がいない場合
-死亡後に相続財産管理人を選任する
-共有者に対する遺贈
-事前対策
-死亡した共有者に法定相続人がいる場合、法定相続人がそのまま持分を取得
法定相続人とは、法律で定められた相続人のことです。
共有不動産であっても、亡くなった方に法定相続人がいれば遺産相続の対象となります。
不動産を共有している場合でも共有者が特別な権利を持つわけではないので共有者の相続人が共有持分を相続して新しい共有者となります。
-死亡した共有者の相続人の3つのパターン
①自分が共有者の相続人ではない場合
自分が相続人でない場合は、死亡した共有者の共有持分はその相続人が取得することになります。
相続人が複数いる場合は、死亡した共有者の共有持分を法定相続割合に応じて各相続人が共有することになります。
②死亡した共有者の相続人が自分を含めた複数である場合
死亡した共有者の相続人に自分が含まれる場合には、他の相続人とともに死亡した共有者の共有持分を共有することになります。
このようなケースでは遺産分割協議において、単独所有になるように共有者間で話し合いをし、生存する共有者が死亡した共有者の共有持分を取得することによって単独所有とすることが多いです。
③死亡した共有者の相続人が自分だけである場合
死亡した共有者の相続人が自分だけである場合には、死亡した共有者のすべての遺産を一人で相続することになります。
その結果、共有状態が解消されて単独所有となります。
-相続人には「被相続人の範囲」、「法廷相続分の割合」が定められている
民法で法定相続人は被相続人の範囲や法定相続分の割合が定められています。
①「被相続人の範囲」
まず必ず相続人になるのは被相続人の配偶者です。
配偶者以外の方の相続人の権利は次の順序になっています。
第1順位は被相続人の子供(子供がすでに死亡しているときは孫)
第2順位は被相続人の直系尊属(父母が優先して相続し、父母がすでに死亡しているときは祖父母が相続)
第3順位は被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡しているときはその子供)
②「法定相続分の割合」
法定相続人が配偶者と子供の場合、法定相続分は配偶者1/2、子供1/2となります。
法定相続人が配偶者と直系尊属の場合は配偶者2/3、直系尊属1/3です。
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合は配偶者3/4、兄弟姉妹1/4となり異母もしくは異父の兄弟姉妹は1/8となります。
配偶者以外の相続人が2人以上いるときは全員で均等に分割します。
例えば相続人が配偶者1人、子供2人であれば、子供1人ずつの法定相続分は1/4になります。(他の場合も同じく均等割りになります。)
ただし、法定相続分による遺産の分割は義務ではないので色々な事情がある場合、遺産分割協議ですべての相続人が合意すれば異なる割合での遺産分割も可能です。
-遺言があれば相続人以外も相続人になる
被相続人が遺言を残すことで法定相続人以外の人物を相続人とすることを「遺贈」といい、被相続人が遺言書を作成して相続人や分割方法を指定します。
しかし法定相続人には遺留分(遺産の最低限の取り分)が定められているので法定相続人は遺留分の財産を取得できます。
死亡した共有者に配偶者や子ども、親、兄弟姉妹など民法に定められた法定相続人が存在しないことがあります。
また相続人が存在していたとしても、相続人全員が相続放棄の手続きをしたことによって相続人が不在になることがあります。
このように共有不動産の持分権者が死亡した場合、相続人がいないケースでは死亡した共有者の相続財産はどうなるのでしょうか。
-相続人がいないケースにおける民法255条と民法958条の3
①民法255条(持分の放棄及び共有者の死亡)
民法255条では「共有者の一人が、その持分を放棄したとき又は死亡して相続人がないときは、その持分は他の共有者に帰属する」と規定しています。
共有持分権者が死亡して相続人がいなければ他の共有持分権者に権利が移ることになります。
②民法958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
一方で民法958条の3では「家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる」とも規定しています。
遺産を受け取れるのは基本的に法定相続人のみで、内縁の妻や献身的に介護を行った人などには相続権がなく一切の遺産を受け取ることができません。
相続人がいない場合にまでそういった方々が遺産を受け取れないのは不合理だという事で、死亡前に被相続人と近い関係にあった人を「特別縁故者」として財産を一部もらう権利を定めています。
-最高裁の判例では民法958条の3を優先させるという立場
共有持分権者が死亡した場合の民法958条の1と民法255条のどちらの規定を優先させるかについて、最高裁平成元年11月24日判決では、民法958条の3を優先させるという立場をとっています。
(最高裁平成元年11月24日)
民法958条の3の規定は、本来国庫に帰属すべき相続財産を被相続人と特別の縁故があった者に分与し、特別縁故者を保護するためのものである。
特別縁故者への財産分与の制度がもうけられているにもかかわらず、相続財産が共有持分というだけで分与が認められないのは不合理であり、被相続人の意思にも合致しない。
共有持分権者が死亡して相続人の不存在が確定したときには、まずは特別縁故者への財産分与の対象となり、その手続を経ても承継する人がいない場合にはじめて255条によって他の共有者に帰属すると理解すべきである。
この判例に基づいて共有者に相続人がいない場合は、共有持分はまず特別縁故者への分与対象となり分与が行われなかったときに他の共有者のものとなるのが通例です。
そのため、死亡した共有者に相続人がいない場合の共有持分の帰属は、以下のように考えることになります。
①死亡した共有者に相続債権者がいる場合
死亡した共有者に相続債権者がいる場合には相続財産を換価処分したうえで、相続債権者への弁済に充てられます。
共有名義の不動産についても換価処分がなされますが、共有持分だけを第三者が取得する可能性は低く、仮に取得する第三者がいても価格が低くなってしまうため、生存する共有者に購入の打診がなされることが多いです。
この場合には共有者は対価を支払って死亡した共有者の共有持分を取得することになります。
②特別縁故者がいる場合
特別縁故者とは①被相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養監護に努めた者、③その他相続人と特別の縁故があった者を言います。
死亡した共有者の法定相続人でなくて、家庭裁判所に特別縁故者と認められることによって特別縁故者として相続財産の全部又は一部を取得することができます。
以後は特別縁故者との共有状態になります。
③債権者も特別縁故者もいない場合
債権者も特別縁故者も現れなかった場合には、民法255条の規定によって生存する共有者が死亡した共有者の共有持分を取得することになります。
取得にあたって対価の支払いは必要なく共有持分の取得によって共有状態が解消され単独所有の状態となります。
わかりやすく優先順位をまとめてみます。
1位は死亡した共有者の法定相続人が共有持分を相続する。
2位は法定相続人がいない場合は特別縁故者へ共有持分の財産分与がおこなわれる。
3位は法定相続人と特別縁故者がいなければ共有持分は共有者に帰属される。
マンションの所有者は、居室部分である専有部分と敷地利用権を持っています。
区分所有法では敷地利用権に関し、規約に別段の定めをしていない限り専有部分と敷地利用権の分離処分を禁止しており、この場合には民法255条の規定は適用されません(区分所有法24条)。
そのため区分所有者が死亡して相続人がおらず、特別縁故者等もいない場合には敷地利用権は他の区分所有者に移転するのではなく、専有部分とともに国庫に帰属することになります。
不動産の共有者が死亡した時、共有者が死亡した後の流れについて相続人がいる場合といない場合をご説明します。
-相続人の人数と公証役場や法務局で遺言書の有無を確認
相続人全員が揃わなければ遺産分割協議が成立しないので、まず相続人の人数を確認します。
遺産分割協議は全員が同じ場所に集合して協議する必要はなく電話やメールでも可能です。弁護士などに代理人となってもらうこともできます。
また遺言書がある場合は遺言書に沿って遺産分割をおこないます。
遺言書の有無確認は公証役場、法務局で検索します。
公証役場や法務局に保管していない場合は自宅など保管されていそうな場所を探してみましょう。
後から遺言書が発見されると相続のやり直しが必要になります。
-遺産分割協議を行い共有持分の相続を決定
相続人がいる場合、相続人らが遺産分割協議を行って誰が共有持分を相続するのかを決定します。
法定相続分どおりに分割するのが基本となり、また遺言書があればその内容が優先されますが相続人全員の同意があれば違う割合で分割できます。
-相続人が共有持分の名義変更登記(相続登記)を行う
遺産分割協議によって共有持分の取得者が決まったら、法務局で相続人が自分で共有持分の名義変更登記(相続登記)をおこないます。
死亡した共有者に法定相続人がいない場合、共有持分は「特別縁故者への相続財産分与」か「共有者への帰属」のどちらかをおこないます。
どちらの場合も財産を取得しようとする場合は特別縁故者および共有者が自分で相続財産管理人選任の申立をする必要があります。
実際に共有持分を取得するまで1年以上の期間がかかります。
-「相続財産管理人」の選任を申し立てる
共有者が死亡した場合、他の共有者が共有持分を取得するには家庭裁判所で相続財産管理人の選任を申し立てなければなりません。
相続財産管理人とは、相続人の存在が明らかでないときに家庭裁判所によって選任される人のことをいい、その役割は死亡した人の財産を管理処分して最終的に国に帰属させる人です。
前に説明したように共有者より特別縁故者が優先され、相続財産管理人が特別縁故者への財産分与の手続きを終えない限り死亡した人の共有持分を他の共有者の名義に移すことはできません。
相続財産管理人は、相続財産を換価するなどして被相続人の債権者に債務の弁済を行い、特別縁故者に相続財産の分与を行うなどして被相続人の相続財産を清算します。
-相続人の捜索、債権者の支払い、特別縁故者への財産分与を行う
相続財産管理人には弁護士や司法書士が選ばれるのが一般的です。
相続財産管理人は被相続人の相続財産を管理しながら、相続人の捜索や必要に応じて財産を処分し現金化したりします。
相続人の捜索は官報の公告によっておこない、相続人が現れなければ「相続人の不存在」が確定します。
その後に特別縁故者への財産分与の手続きが行われます。
-最終的に共有持分権者による取得
相続財産管理人が換価や必要な支払いをした後、死亡した人の共有持分が残っていたらその持分は他の共有持分権者のものとなります。
また、特別縁故者がいなかった場合や特別縁故者への財産分与によってもなお財産が残っている場合には、共有持分については民法255条によって国庫ではなく他の共有持分者に帰属することになります。
-死亡後に相続財産管理人を選任する
共有者が死亡したとき、他の共有者がその持分を取得したい場合には家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任しなければなりません。
共有者が勝手に特別縁故者と話し合いをしたり財産分与したりすることはできないので共有持分をもらうために、まずは相続財産管理人を選任しなければならないのです。
相続財産管理人が選任されたら、相続財産管理人が財産の換価や処分を行っていき、最終的に特別縁故者への財産分与の手続きを行います。
その時点で共有持分が処分されずに残っていたら、民法255条によって生きている共有持分権者が死亡した人の共有持分を取得することが可能になります。
-共有者に対する遺贈
遺言が有効な理由は共有者の死後に他の共有者が死亡した人の共有持分を自力で取得しようとすると、非常に大変で費用もかかります。
遺言によって共有持分の引き継ぎ手を指定しておけば、相続開始後すぐに指定された人が共有持分を取得できます。
この場合、相続財産管理人の選任は不要ですし、特別縁故者に分与される可能性もありません。
共同で不動産を所有している共有者が共有相手の死亡後に持分を取得したいなら、相手の生前にしっかり話し合いをして、自分に共有持分を譲ってくれるよう説得してから遺言書を書いてもらう必要があります。
-事前対策
不動産を共同で所有している共有者の1人が亡くなると複雑な問題が生じる可能性があります。
不動産を共有状態にしておくことはデメリットが大きいため、できる限り共有状態を解消するために、共有者の生前から対策を講じておくことが重要です。
これまで共有状態である不動産はなるべく早期に単独所有に整理することが将来のトラブルを解消するために有効な手段と言えます。
共有者や共有者の相続人と話し合うことによって共有持分の譲渡を実現できる方法もあります。
しかし、話し合いがまとまらない場合には、共有物分割請求という裁判手続きによって共有状態を解消することになります。
共有者が死亡した場合には、他の共有者が相続人になる場合を除き、共有持分を取得するためには、複雑な手続きを要することになります。そのため、共有者以外に共有持分が移転しないようにするには、共有者が生前に対策を講じることが重要です。
共有不動産がある場合どのような対策が最適であるかは、置かれている状況によって異なり、専門的な判断が必要になりますので共有不動産の扱いに経験豊富は不動産業者にご相談ください。
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